名刺からはじまる営業現場のイノベーション ~1ツールで生産性を拡大したある会社の物語~
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第3話『SFAを活用して導入成果を示せ!』
営業部第1チームに、ホットプロファイルが正式に導入された。無料トライアルを通じて情報共有の重要性とシンプルな操作性を充分に認識したメンバーが、再び運用を放棄する不安はない。それどころか、「導入の成果を実績で示せ」という麻川営業部長の言葉を「つまり、我々がホットプロファイル効果を証明するパイロットチームということだな」とアグレッシブに受け止め、運用ルール策定の場にも全員で参加した。
"名刺から得られる顧客情報を最大活用して、売上20%アップを確実に達成する仕組み"の構築に向けて、マネージャー・木築、ハンモック社営業担当・発田、そして第1チーム全員の思いが今や完全に1つになっていた。
高精度な顧客データが営業活動を
支える
第1チームの留守を預かる白田は、キャビネットに眠る古い名刺の束を見つけては、ホットプロファイルにデータを取り込むために行うスキャン作業を日々の業務の楽しみの1つにしていた。このスキャナーは、発田に提案してもらったホットプロファイルの推奨機。20枚程度の名刺を一度にスキャンすることができるので、作業はいつもスムーズだ。
ハミングでもしたくなる気分でスキャンに没頭していると、後ろから「頑張っていますね」と声がする。
振り返ると、今や第1チームのメンバーと言っていいほど深い間柄になった発田がニコニコしていた。
「近くまで来たので運用定着支援を兼ねて立ち寄ったのですが、皆さんにはもう必要なさそうですね」
「おかげさまで、私たちは名刺をスキャンして、登録したい追加情報を送るだけですからね。それでも、これだけ正確で人事異動まで含めた詳細な顧客データが送られてきます。それはなぜでしょう?」
「実は、ハンモック社の専属オペレーターが目視でお客様のデータを入力させていただいています。OCR(光学的文字認識)にはどうしても誤認識が伴いますが、オペレーターが責任を持って誤字・脱字を修正しますので、99%以上の高精度を誇る顧客データベースを構築することができるのです」
しかも、顧客データを登録する際に名寄せを行うため、たとえ同一人物の名刺が紛れていてもその顧客のデータが重複することはない。また、ハンモック社が管理する企業データベースと照合され、取引先企業の属性情報やHP発表事項を含めた最新動向のデータが自動的に付与されて、有益な営業情報となって送信されてくる。合理的で誠意に溢れるシステムが、第1チームのチャレンジをしっかり支えている。感激した白田は、ホットプロファイルへの感謝の気持をベンダーが一番嬉しい言葉で表した。
「みんな頑張っていますよ。一番抵抗していた東君までが"営業に欠かせない必須アイテム。その有効性を俺が真っ先に証明する"んですって」
名刺情報を共有して機動的な営業を展開
同じ頃、クシャミをしながら訪問先で交換したばかりの名刺をスマートフォンにかざす東の姿が、丸の内のオフィス街にあった。画面の赤枠内に名刺の画像を収めると、後はショットキーを押すだけ。続いてチーム内で定めた報告事項をテンプレートから選択するだけで、営業報告が完了する。
あれだけ訪問顧客のデータを打ち込む面倒を嫌いながら、今は嬉々としてキーを叩いていることが、我ながら可笑しかった。照れ隠しをするように、東はつぶやく。
「そう、メニューにあるように<リアルタイム報告>が大事なんだ。それがあるから、必要な情報をいつでもスマホから取り出せる」
メニューを切り換えると、かつて自分が名刺交換した丸の内の顧客のデータを呼び出す。その画面にある<近くの名刺>のキーにタッチすると、GPSと連携してチームのメンバーが接触した丸の内圏内の顧客の一覧が表示される。これまでの商談履歴も確認できるので、どの顧客のフォローに回るべきかがすぐに判断できる。
「成果を示すために、手間と時間を短縮して最短距離を進む。これって、できる営業マンの鉄則だろ」
かつて1枚の名刺だけを頼りに効率的なピンポイント営業をしていた東が、今ではすっかりチーム全員で複数の名刺の情報を共有する営業展開の効率性を認めていた。
アプローチする顧客を徹底的に
分析する
チーム内での情報共有と統合は、戦略的な営業アプローチに最大の効果を発揮する。第1チームでは、ある企業で進める大規模なプラント建設計画に向けて、自社制御システムの積極的な売り込みを図っている。なんとしても商談成約に結びつけたいメンバー達にとって、<お客様カルテ>の1画面にあらゆる顧客情報を集約するホットプロファイルは、ターゲットの攻略ポイントを探る上で心強い戦略チャートの役割を果たしていた。
「<タイムライン>には、君達のX社での名刺交換履歴が毎日のように報告されている。訪問先に重複もなく、みんな頑張ってるみたいだな」
進捗状況を確認するミーティングの場で木築が激励すると、真面目な顔で西村が答える。
「ホットプロファイルは、送信した名刺のデータを<組織ツリー>に反映してくれますからね。おかげで、X社の組織構成が"見える化"されて、無駄のない訪問活動ができています」
「<企業ニュース>のプレスリリースを見ると、X社はプラント建設計画を公式発表したようです。こうなると、競合がどんどん参入してきますね」
「そうなると関連するセクションを個別に訪問していく時間はないな。いち早く、商談成約のカギを握る人物を絞り込む必要がある」
「問題は、我々とX社との接触がこれまで希薄だった点ですね。誰が制御機器導入の決裁権を持つのか、いまだに掴めません。麻川部長の厳命とはいえ、やはり第1チームの人脈だけでは限りがあります」
西村が苦境を報告すると、木築はその言葉を待っていたかのようにつぶやく。「この際、裏技を使うか」
共有する情報のレンジを拡大する
住宅用設備機器を扱う第3チームから転属になったばかりの北野は、顧客層の違いを把握する研修を兼ねてホットプロファイルの顧客データベースから着任挨拶のメールを送る。送信者として自分自身の名前を挿入して一斉メールを送る<One to Oneメール>機能により、新しい顧客への大量メール送信も苦にならない。
「北野ちゃんも頑張っているじゃない」と白田が声をかけると、北野は嬉しそうに答える。
「このチームは、凄いSFA使っていますね。お客様から返信をもらえなくても開封しているかどうかが把握できるので、すぐに次のフォローへと結びつけられますよ」
「これから、もっと驚かされることが起きるよ。それを見たければ、第3チームでたくさん集めてきた名刺を、今すぐお姉さんに提出しなさい」
その様子を笑いながら確認すると、木築は友人である第2チームマネージャー・南田のデスクに向かう。
「お!物好きにも営業部にSFAの再導入を試みる木築君じゃないか。なんの用だい?」
「その言いぐさだと、第2チームに名刺の管理など無用だろう。使ってない名刺ホルダーを貸してくれ」
「ああ、うちの顧客リストは鉄板だからな。接触記録に過ぎない名刺は全部、持っていけよ」
社内の人脈を活かしてキーマンと
接触
第1チームの訪問活動だけでは把握できなかったX社の組織構造を、社内の名刺交換履歴を可能な限り掘り起こすことで補強する木築の「裏技」が図に当たった。今、メンバー達のノートパソコンに、以前とは比較にならないほどリーチを拡げた<組織ツリー>が展開する。
「さすが、安定した顧客基盤を持つエネルギー制御機器担当チームだけありますね。第2チームの<名刺所有者>情報が加わったおかげで、X社の攻めどころが一目瞭然となりましたよ」
「まさか、グローバル開発推進本部が国内のプラント建設まで関わるなんてな。個別訪問だけでは掴めないわけだ」
木築は、ここぞとばかりに勝ちパターンを提示する。
「しかも、マネージャーの南田は、本部長が就任する以前からのつき合いらしい。この社内人脈を活かさない手はない」
名刺に紐づけて顧客情報を
一元化する
南田の強力な口添えもあって、営業部第1チームはX社グローバル開発推進本部長から制御システム発注の確約を得ることができた。この日は、南田の慰労を兼ねての酒宴の日。もちろん、発田を呼ぶことも忘れない。
「しかし、社内に眠る名刺まで着目したのは、さすがですね。ホットプロファイルは名刺に紐づけて顧客情報を一元化し、商談成約に働きかけるシステムですから、当然、ベースとなる名刺の数が多いほど、効果を発揮するわけです」
「こうなったら、思い切って営業部全体に導入しちゃいましょうよ。プッシュして下さい、発田さん」
東がけしかけると、酔いの回った南田までが絡みだす。
「そうだ!こんな便利なSFAを、こいつら第1チームだけに使わせてたまるか!」
南田が思わずもらした本音に、木築と発田は顔を見合わせた。「この流れは、使える」