【有識者インタビュー】『導線経営』コンサルタント 中丸 秀昭氏に聞く<前編>

INDEX

    「収益力向上を実現する営業戦略」右肩下がりの時代は営業部門の見える化が必須

    勘と経験で、経営がうまくいく時代ではありません。 世の中の情勢をきちんと把握して、現状に即した営業戦略を立てることが求められています。 いま、そしてこれからの時代の状況と、いますべきことをお伝えします。

    日本成長戦略研究所株式会社   代表取締役 『導線経営』コンサルタント 中丸 秀昭 氏
    集客から営業、販売まで、儲けを逃さない導線を設計して、収益を最大化する仕組みを作る経営手法を『導線経営®』として体系化した第一人者。300社以上の業績アップ・人材育成に携わる。ジャパンタイムズ本誌・電子版『アジアの次世代リーダー100』に掲載される。
    大学時代のホテルレストランのバイトで、工夫で売上が上がる楽しさを知り、卒業後、広告会社の営業マンに。成績が悪く、最後通告を言い渡されるも、今までと異なる営業手法でトップセールスから最年少マネージャーへ。正しいやり方を知って成功してほしいと経営コンサルタントに。

    求められているのは、人口減少・
    市場縮小時代に生き残る環境適応業

    いま経営者がやらなければいけないことは?

    経営とは環境適応業です。常に環境の変化にどう適応していくかを考える必要があります。特に環境の変化が著しく速くなっている今、昔の成功体験が大敵となります。環境が変われば、かつての強みは強みではなくなります。たとえばフイルム業界では、デジタル化の波が押し寄せたとき、銀塩フイルムにこだわった会社は破綻して、デジタル化に対応するのみならず、医薬品や化粧品などの新たな分野に進出した企業は躍進しています。

    経営者は新しい時代に合わせて、会社の舵取りをしなければいけません。たとえばネットやITを「よくわからないから」と放置していたら、経営者失格です。わからないなら、自ら労力と時間をかけて学ぶか、それが嫌なら、わかる人に依頼してやってもらわなければなりません。

    いま企業が意識すべきことは?

    景気は右肩下がりという現実を認識する必要があります。

    終戦直後の1945年に約7000万人弱だった日本の人口は、ピークである2010年に、約1.8倍の約1億2,800万人になり、そこから人口は急速に減っています。2050年には1億人を切ると言われています。

    人口増加と共に市場が拡大した時代は終わり、人口減少と共に市場が縮小していく時代になりました。

    日本の総人口の長期的推移グラフ
    参考:市町村合併の進捗状況について(PDF)
    参考:平成22年国勢調査 人口速報集計結果(PDF)

    経験や勘では勝ち残れない、
    戦略が必要な時代

    人口減少時代の営業とは?

    かつて人口と共に市場が拡大していた時代には、需要が供給を上回っていたので、作れば作っただけ売れました。早く供給した者、先に市場を取った者が勝ちました。緻密な計算をしなくても、経験と勘で営業できる時代でした。

    しかし、人口と共に市場も縮小していく時代には、供給が需要を上回ります。競合他社から市場のパイを奪わなければなりません。同じような商品やサービスが、同じような価格で売られている中で、どのようにすれば、自社のサービスや商品を選んでもらえるかを、きちんと戦略的に考えた営業が必要です。

    かつては、視界が開けた晴れた日の飛行機が、目に飛び込んでくる風景を頼りに操縦できたように、特別な調査や戦術なしでも、営業できました。しかし、現在は一寸先も見えない暗闇を飛ぶ飛行機のように、きちんとデータを取って、緻密な計算なしには、営業を成功させることはできません。

    収益力を向上させるには?

    収益力を向上させるには、すべての顧客を均等に扱ってはいけません。経営資源が限られている中小企業においては、顧客をランクで分け、利益が上がる顧客に、経営資源、つまり営業パーソンを投入しなければなりません。

    受注が難しい、しかも受注しても大して利益が上がりそうもない顧客に、経営資源を注いでいたのでは、収益力は向上しません。受注確率や受注できたときの金額をきちんと予測して、また既存顧客なら今後の売り上げの伸びの見込みなどをにらんで、収益が上がりやすい顧客に経営資源を集中すべきです。

    BtoBの営業は
    組織的な営業が必須

    BtoBの営業において重要なことは?

    BtoBにおいては、担当窓口と決定権者、つまり決裁者が異なります。BtoBに衝動買いはありません。法人の購買は起案から稟議承認まで時間がかかり、多くの人が関与しています。こちら側も多くの人が関わり、チームで営業を行うべきです。単純に地域を分けるなどして、収益性の高い重要な新規顧客との商談を、若手の営業担当者に任せっぱなしにしておいて、失注してから、逃がした魚の大きさに気づいて騒ぐのでは遅すぎます。

    「そんな商談が進んでいたなんて知らなかった」では済まされません。属人的にならず、組織として会社がきちんと把握して、組織的な営業活動を行うべきです。

    組織的な営業を行うためにすべきことは?

    まず、営業の可視化が欠かせません。どんな顧客に対する営業活動が、どういう工程で、どう進んでいるのか、きちんと把握して、会社として案件管理する必要があります。

    名刺が個人の引き出しにしまわれていて、個人管理になっているなんていうのは論外です。会社の名刺と交換された顧客の名刺は会社の資産です。名刺を受け取ったのは、あくまで一担当者に過ぎません。その担当者の後ろで、マネージャーから社長まで、チームでサポートしている姿を会社として見せる会社での名刺管理と共に、会社全体として、営業活動の状況を把握、組織的にコントロールするために、営業を可視化するSFAツールが必要です。

    各営業担当者にとっても、SFAは戦略的に営業活動をしていく際に、営業を効率よく進めるために役立つツールです。自分の営業活動をきちんと可視化することで、現状を把握できますし、自分だけではできないことを、組織の力を活用して実現するためにも役立ちます。

    組織的な営業とは?

    組織的な営業とは、状況をきちんと把握し、戦略的に人材などの経営資源を最適配置して、行うものです。

    「重要度が低い顧客は新人に任せ、重要な顧客にベテラン営業を当てればいいのだろう?」と単純に経営資源を配置しようと考えがちですが、それでは各営業担当者に任せっぱなしの、個人営業の集合と大して変わりません。

    営業担当者それぞれに得意分野があります。決裁者に会って、自社の商品やサービスに関心を向けさせる面談が得意な人もいれば、具体的に見積りを出して話し合う商談で受注に持ち込むのが得意な人もいます。若い営業担当者なら、アプローチ件数は稼げるでしょう。それらの人材を、営業活動の工程に合わせて、適材適所で活用すべきです。

    たとえば若手が最初のとっかかりを作り、その後、大きな利益を上げられそうな顧客の部長と具体的にお金の話をさせてもらえる段階に至ったら、こちらも受注率が高い部長以上の人材を出すというふうに、担当者の不得意を他の者がフォローすることで、着実に受注につなげましょう。

    ルーティン営業も、会社としての戦略に基づいて行います。どの顧客を、どんな頻度で訪ねるか、どのくらい時間を割くか、それを営業担当者各自に、任せっぱなしにせず、会社としてコントロールすべきです。

    勘と経験が通用する時代ではありません。特にBtoBにおいては、組織的な営業が不可欠です。
    そのためにはSFAを用いて、チームとして営業状況を把握して、数字を達成するためのシナリオづくりをして、人材などの資源の最適配置を行いましょう。

    次回の後編では、具体的に、どのような営業戦術があり、それに基づいて、力を注ぐべき顧客をどうやって判断するか、その判断基準などをお伝えします。

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