【有識者インタビュー】『上司学』コンサルタント 嶋津 良智氏に聞く
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部下も上司も育つ、最強チームをつくるマネージメント5つの心得
企業経営や営業部門のマネージメントには、常に生産性アップを意識することが必須。 今回は日本で唯一の『上司学』コンサルタントとして活躍する嶋津良智(しまず よしのり)氏を迎え、営業マネージメントの極意をうかがった。
嶋津氏は、IT系ベンチャー企業に入社後28歳で独立・起業し代表取締役に就任。
M&Aを経て2004年52億の会社まで育て株式上場(IPO)を果たし、2005年 次世代リーダーを育成することを目的とした 教育機関『リーダーズアカデミー』を設立した経歴の持ち主である。
一般社団法人日本リーダーズ学会 代表理事 嶋津 良智(しまづ よしのり)
IT系ベンチャー企業に入社後28歳で独立・起業し代表取締役に就任。M&Aを経て2004年52億の会社まで育て株式上場(IPO)を果たす。
2005年 次世代リーダーを育成することを目的とした 教育機関『リーダーズアカデミー』を設立。
2007年 シンガポールへ拠点を移し、講演・企業研修・コンサルティングを行う傍ら、顧問・社外役員として経営に参画。業績向上のための独自プログラム『上司学』が好評を博し、世界15都市(ハワイ、ロサンゼルス、ニューヨーク、バンクーバー、シドニー、ゴールドコースト、シンガポール、上海、香港、深圳、台湾、バンコク、ジャカルタ、ロンドン、大連)でビジネスセミナーを開催。延べ30,000人以上のリーダー育成に携わる。
主な著書としてシリーズ100万部を突破しベストセラーにもなった『 怒らない技術 』をはじめ『 あたりまえだけどなかなかできない 上司のルール 』、『 だから、部下がついてこない!』、『「弱い」リーダーが最強のチームをつくる』などがあり、累計150万部を超える。
時代に合わせて、マーケティングのありかたも変わる
新入社員時代と現在で、セールス現場での
変化は?
セールスの変遷はマーケティングの変遷と重なると思います。4Pから4C※へと顧客志向に変わってきていますし、モラルエンゲージメントで顧客との価値観を共有するなど、マーケティングの考え方も私の新入社員時代からだいぶ変化しています。顧客が気づいていないことを積極的に提案していく発想の転換が大切です。いまはお客様の方が情報を持っている時代。私の若い頃のようにガムシャラなだけでは結果にはつながらないと考えています。
※4P=製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販促(Promotion)の頭文字。マーケティングをこの4つの要素に分解して組み立てた考え方、枠組みのこと。
4C=顧客価値(Customer Value)、経費(Cost)、利便性(Convenience)、コミュニケーション(Communication)の頭文字。4Pを顧客目線で再構築したのが4Cとされる。
マネージメントの5つの心得
マネージメントの心得について、5つ挙げるとすると?
1.現場から正しいやり方を引き出す
2.人に頼らない仕組み化、システム化
3.コミュニケーションの風通しを良くする
4.教育の底上げ、ではなく屋根上げ
5.ビジョンの共有
の5つになると思います。早速ひとつずつご説明します。
心得1:現場から正しいやり方を
引き出す
現場からやり方を引き出すとは?
現在マネージャーの立場にある世代は、入社当時バブル絶頂の世代が多い。しかし、そのセオリーのままでは、なかなか通用しない世の中になっています。現場の声にしっかりと耳を傾けることが非常に大切です。
いまの時代のやり方は、いまの人たちに聞くのがいちばん。現場に合ったやり方を現場から引き出すことが大切だと思います。
心得2:人に頼らない仕組み化、
システム化
属人化しない仕組みやシステムについては?
セールスを個々人の能力に依存することは避けなければいけません。ITも進んでいるので、仕組みやシステムで推進していくのかが大切です。良い時と悪い時の差を減らす、セールスの平準化を図ることが重要です。
マネージメントそのものも仕組み化、システム化したいところです。人員の数、教育のコスト、スキルの質で、どこまでセールスが上がる、ということをシステムとして明確化しておくべきです。そこにはやはりITを上手く使うことも要求されると思います。
心得3:コミュニケーションの
風通しを良くする
組織内のコミュニケーションについては?
ポジションフラットではなくコミュニケーションフラットです。立場を超えて、言いたいことが言い合えるチーム内の関係性が大切なのです。労働生産性を上げるためには、1.情報の共有、2.タイムマネージメント、3.チーム内の関係の質を上げることが必要だとされています。フロリダ大学の研究で、上下関係が上手くいっている、いないで生産性に最大3倍の開きが出ることがわかりました。関係が悪いと、部下が反逆行動を取ってしまうのです。
さらに、MITのダニエル・キム教授による「組織の成功循環モデル」の研究があります。要点としては、先にチームの関係性を良好にすることがいい結果につながり(グッドサイクル)、先にいい結果を求めてしまうと関係性にも悪い影響を与えてしまう(バッドサイクル)、という研究報告です。
これから成果を出せる企業・チームは、頭の中にあることをそのまま表に出せるチームの関係を持つことが必須になるでしょう。さきほどの現場からやり方を引き出す、という観点からも、これはとても重要です。
心得4:教育の底上げ、ではなく
屋根上げ
この「屋根上げ」というキーワードは?
人と人との関係には、影響の連鎖があります。一人の優秀なリーダーがいたとして、3人の部下を育て、その3人がまたそれぞれ3人を育てる。そうした間接的な影響も考えると、一人のリーダーの影響はねずみ算式に広がっていきます。
よく、研修の効率が上がらないという悩みをお聞きしますが、部下が研修を行って帰ってきた現場で、上司がいままでどおりだった場合、結局部下は元通りのレベルに戻るという例が後を絶ちません。
経営学者のドラッガーも、一流の人材を育てる要諦は一流の人材と一緒に仕事をさせることである。と言っているように、トップのレベルが上がれば後は自然と教育も行われると考えています。人を教える側のレベルを上げる。それが「屋根上げ」です。
心得5:ビジョンの共有
ビジョンの共有については?
青山学院大学の原監督やラグビーの清宮監督など、スポーツで連覇する監督がいらっしゃいますが、そこにはビジョンだけでなく人を育てる際の「ルール」が存在していると考えています。
結果を出すためにやらなければならないことは3つしかありません。1.ビジョンの実現に向けて、正しい目標を選べるかどうか、2.選んだ目標に対して正しい行動をとれるかどうか、3.選んだ行動を正しく続けられるかどうか、の3点です。
みなさん頭では理解していることだとは思いますが、なかなか実行できない。それはなぜか。リーダーは、感覚知を形式知にして伝えないといけません。名プレーヤー名監督にあらず、とよく言いますが、選手時代は自分のセンス「感覚知」を信じていれば上手くいった。しかしマネージャーになった場合、それをみんなにわかりやすい「形式知」に落とし込まないと上手くいかない。ちゃんと「形式知」として実行しやすくできるかどうか、そこが一流マネージャーと二流の違いと言えるのではないでしょうか。
形式知とは仕組み化、フォーマット化、マニュアル化、いろいろな方法があると思います。
リーダーは自らの強み・弱みを
よく知るべし
リーダーには4つの責任があります。まず「結果」についての責任、これは当然として次に部下、チームの「育成」責任があります。そしてその結果について「説明」する責任があり、最後に自分自身が「成長」し続ける責任があります。
リーダーの責任とは?
成長できるのもリーダーの楽しさでもあるわけで、前向きになれるモチベーションが必要です。人を育てることが好き、リーダーはそんな資質が必要なのではないでしょうか。
これもドラッガーの言葉ですが、「組織とは人の強みを活かし、弱みを中和するものである」というものがあります。リーダーは自分をよく知り、何が強みで何が弱みかを把握することが大切。自分のレベルを客観的に見る習慣を付けるべきです。